-この記事は「時には木陰に寝ころんで」より、引っ越ししてきました-

 

クリスマスまであと少し。プレゼントにごちそうにケーキと、準備に忙しい。我が家は今年、クリスマスバージョンのホットワインを作ってみた。

 

クリスマスのホットワイン

ホットワインの呼び方いろいろ

海外でホットワインを注文したいとき、メニューを探してもホットワインを見つけることはできないのだそう。なぜならば、ホットワインというのは和製英語だから。

私たちの冷えた手を温め、スパイスとワインの豊かな香りがこころを解きほぐし、ひとくち飲めばお腹の底から温まり、思わずホッとため息とほほえみがこぼれてしまうあの魔法の液体、ホットワインのことを、海外ではなんと呼ぶのだろう。ワインを飲む習慣があり、かつ、冬が寒い地域では、日本でいうところのホットワインがよく飲まれていて、言語によって違った名前で呼ばれているそうだ。

たとえばフランスでは、vin chaud(ヴァン・ショー)。フランス語でvinはワイン、chaudは熱いという意味。人生の楽しみや喜びと同様に、おいしいものをとことん追求するフランス人のvin chaud。彼らを満足させるためにレシピが工夫され、アレンジされ、歴史の中で洗練された1杯が、あちこちのカフェで飲まれていると思うと心がときめく。

フランスのvin chaudのことを考えたときに、思い出すことがある。私が通っていた高校は外国語を熱心に教えていたので、高校生のころから英語とは別に第2外国語が必修になっていて、私はフランス語を専攻していた。初級者用のテキストにはさまざまなシーンでのフランス語の使用例が載っていて、その中のひとつにカフェでの注文というシーンがあった。メニューをください、水を飲みます、野菜を食べます、といった基本的なフランス語の中に、なぜか突然紛れ込んでいたのは、vin chaudをください、という使用例。高校生にわかるはずもないフランスの飲み物、vin chaud。海と大陸を超えた先にある、自由と平等と博愛の国フランスの、どこかの町角で飲む冬のvin chaud。できるかぎり想像したものだけど、やはり高校生の経験値では遠く及ばない、異国の飲み物だった。

 

フランスの隣のドイツでは、Glühwein(グリュー・ワイン)と呼ばれている。島国の日本では不思議な感覚だけど、いくつもの国が陸続きにあるヨーロッパでは、かつてはひとつの国だったところがふたつになったり、ふたつの国だったところがひとつになったり、フランスだったところがドイツになったりするのは、歴史を見るとよくあることなのだ。時代によって所属する国が変わってしまうような場所に住む人たちが、政治的あるいは軍事的、経済的利害関係から突然どちらかの国に変わることになっても意思疎通ができるように、彼らが共通の言語を話していても不思議ではないのだけれど、現実にはいくつもの言語が存在している。隣り合っているために何度も国境が移動したフランスとドイツも、ホットワインを意味する言語は違うのだ。

 

ホットワインという言葉が和製英語だということは先ほど言ったとおりだ。正しい英語、つまりイギリスの言葉では、mulled wine(マルド・ワイン)という。お砂糖やスパイスを入れて温める、という意味のmullを使って、mulled cider(マルド・サイダー)、つまりホット・シードルというのもあるそうだ。

 

クリスマスマーケット

ヨーロッパの人たちにとって、ホットワインといえばクリスマスマーケットなのだとか。わざわざ12月の寒い空の下に屋台が出て、ツリーに飾るオーナメントやキャンディ、トフィなどのお菓子、グリーティングを贈るためのポストカードなどが所狭しと売られている。そんな中に必ずあるのが、ホットワインの屋台。寒さでかじかんだ手を温めながらフーフーと飲んで、温かさとその香りを楽しむのだそう。あたりの静かな闇夜と対照的に、人で賑わい、あたたかなライトアップがされたクリスマスマーケットは、昔から暗く寒い冬を迎えるヨーロッパの人びとの楽しみだったのだろう。広場の近くの教会からクリスマスのミサの歌声が聞こえてくる、そんな情景が浮かんでくる。

有名なユゴーの小説レ・ミゼラブルでは、コゼットが哀れな生活をしているモンフェルメイユという町に、ジャン・バルジャンが到着したのがちょうどクリスマスの夜。パリからやってきた露天商たちが、モンフェルメイユの大通りや広場に屋台を広げていた。ふたりは屋台が立ち並ぶ大通りを並んで歩き、コゼットはその屋台のなかのひとつで売られているすばらしい人形に心を奪われたのだ。

 

クリスマスレシピのホットワイン

クリスマスマーケットに行っても行かなくても、冷たい風に吹かれて体が冷えてしまったら、ホットワインでこころも体も温まりたい。ホットワインとひとことで言っても決まったレシピがあるわけではなく、家庭ごと、カフェごとにオリジナルレシピがあるようだ。赤ワインでも白ワインでも作れるし、入れるスパイスもそれぞれ、最後にフレッシュフルーツを浮かべたり、ブランデーをひと垂らし、というのもおいしそう。

クリスマスの時期にいつでも手軽に飲めるよう、ホットワインミックスのサシェを作ってみた。クリスマスらしく、クランベリーとオレンジピールの華やかな香り。

 

 

1回分のスパイスとドライフルーツをティーバック風に詰めてあるので、毎回面倒な計量は必要ない。はちみつを入れたりブランデーを垂らしたり、いろいろアレンジしてみようと思う。いくつかを箱に入れて、クリスマスのプレゼントにも。

 

 

 

ホットワインのつくり方

クリスマスバージョン

レシピの分量で、ワインボトル半分の量のホットワインを4回作れます。

  • シナモンスティック 4 本
  • オレンジピール 15 g
  • クランベリー 15 g
  • クローブ 16 こ (ホールのクローブ)
  • お茶バッグ 4 枚
  • たこ紐 適宜
  1. シナモンスティックをジップロックに入れて空気を抜いてしっかり口を閉じる。ジップロックの上からハンマーかすりこぎで叩いて潰す。
  2. オレンジピール、クランベリーを適当な大きさに刻む。
  3. シナモンスティック、オレンジピール、クランベリーを混ぜ合わせ、4等分にしてお茶バッグに入れる。
  4. それぞれのお茶バッグにクローブを4つずつ入れて、口を閉じる。たこ紐で結ぶとかわいくなりました。

ホットワインを飲むとき

  1. 水50gと砂糖30gを鍋で温め、砂糖を溶かす。
  2. 赤ワイン375ml(ボトル半分)、ホットワインバッグ1つを加え、弱火で温める。熱いうちに召し上がれ。
  3. お好みでブランデーを垂らしてもおいしい。砂糖の代わりにはちみつでも。