ヨーロッパでピクニックが一般的になったのは19世紀に入ってから。だけどすでに中世のころから、貴族たちは野外での食事を楽しんでいたそうだ。それはとってもゴージャスなピクニック。

 

狩りとピクニック

狩り

中世のピクニックは(そのころはまだピクニックをいう呼び方をしていなかったのだけど)、貴族によって狩りの途中で行われたと言われている。猟犬を使ったきつね狩りや、ハヤブサやタカを操る鷹狩り。貴族の狩りを題材にした絵画には、なんとヒョウらしき動物まで登場している。

貴族の狩りは、今晩のごはんを調達するための狩りではない。華麗に馬を操りながら狩猟の技を披露することは、貴族のたしなみであると同時に、たのしい娯楽でもあったのだ。

そのような娯楽に必要なのが、おいしい食事と女性たち。紳士たちが見事獲物をゲットして戻ってくると、そこには豪華な食事の用意が整い、美しい貴婦人である妻や娘たちが待っている。

 

ゴージャスなピクニック

狩りの途中とはいえ貴族のピクニックだから、それはそれは豪華なピクニックだった。テーブルには真っ白なクロスが敷かれ、同行している料理人によるごちそうが並ぶ。もちろんワインは欠かせない。狩りで仕留めた獲物も、ごちそうに加わったのだろう。召使いが料理を給仕し、かたわらに寝そべるのは、狩りで活躍したに違いない犬たち。

このような狩りの集いは接待や政治の場にもなったため、参加者の数や顔ぶれによっては大がかりなピクニックになったようだ。音楽を楽しむための楽器や楽譜、あるいは音楽家を同行させたり、ミサをあげるための祭壇と僧侶を同行させることも。そのほか大勢の使用人と、到着を知らせるラッパ奏者。

 

ピクニックのメニュー

そんな貴族たちのゴージャスピクニックでは、一体どんなメニューが並んだのだろう。中世の正餐や晩餐では、すでにコース料理があったようだ。以下は私の妄想メニュー。

アペリティフ

甘いワイン

塩味の焼き菓子

クレソンとローズマリーのサラダにスミレの花を添えて

ミントで飾った野生のいちご

アペリティフとは食前酒のこと。甘いワインと一緒に、フルーツやサラダなどのオードブルが出されたようだ。中世のサラダはハーブが中心で、そこにお花を添えて一緒に食べていたそうだ。彩り豊かで華やかな一皿だったことだろう。一杯飲んでリラックスしたところで、いよいよ食事が始まる。

 

スープ

スパイスで風味を付けたエンドウ豆のポタージュ

中世の貴族の料理には、いまでは考えられないくらいたくさんのスパイスが使われていた。防腐のためであり、財力を誇示するためでもあったのかもしれない。おなじみのジンジャーやシナモンはもちろんのこと、中にはサフランのような高価なスパイスも。それらの味を複雑に組み合わせて、ハーモニーを楽しんだのだろう。

 

お魚

ハーブのブイヨンで茹でたニジマスをワインのソースで

ワインとスパイス(シナモン、ナツメグ、ジンジャー、コショウなど)、ビネガーを合わせた酸っぱいソースは、お魚にもお肉にもよく合う中世料理の定番だったようだ。

 

アントルメ

楽器の生演奏

料理と料理のあいだに出されるアントルメは、テーブルの会話を円滑にする余興のような存在だ。真っ白な羽根をまとって、まるで生きているかのように再現された白鳥の丸焼きや、有名な戦いの場面を再現した砂糖菓子など、様々な趣向が凝らされた。ついにはワインの噴水や演劇など、食べられないものまで登場!ちなみに現在のアントルメは、デザートの一部としてお菓子やフルーツのことを指す。

 

お肉

詰め物をしたウズラのローストにサクランボを添えて

野ウサギとスパイスのワイン煮

ピクニックのメインともいえるお肉料理は、本日の狩りの獲物を新鮮なうちに。ゆっくりと時間をかけて贅沢な食事を楽しんでいるあいだに、専属の料理人がおいしいごちそうにしてくれたのだろう。

 

デザート

チーズのフラン

はちみつとスパイスのクリームカスタードタルト

アプリコットのコンポート

干したイチジク

意外なことに、デザートには甘いものだけでなく塩味のものもあった。食後のフルーツはフレッシュではなく、ドライフルーツや砂糖漬けが中心だったようだ。

 

ブートオール

甘いワイン

オレンジの皮の砂糖漬け

バラの香りのシュガーペースト

時間をかけた豪華な食事の締めくくりは、ワインと甘いもの。お腹いっぱい、ワインもたっぷり飲んだ貴族たちは、きちんと設えられたテーブルを離れ、草の上や木に腰かけてくつろいだ時間を過ごしたに違いない。それこそがピクニックの醍醐味なのだから。

 

中世メニューの参考:中世ヨーロッパ 食の生活史