2014年公開のジブリ作品、「思い出のマーニー」。個人的に大好きな作品で、夏の北海道の美しい海辺の風景や、秘密のともだち、洋館での華やかなパーティなど、乙女ごころを存分に刺激してくれる。なかでも特に美しく、憧れのため息がでてしまうのは、夜、ボートでピクニックをするシーン。

 

マーニーのボートで夜のピクニック

秘密のともだち

夜の静かな入り江にボートをつけて、マーニーとふたりでピクニック。

お互いの秘密のともだちについてまだほとんど何も知らない杏奈とマーニー。ぺちゃくちゃとおしゃべりをしたり、いろいろなことを根掘り葉掘り質問したり、しまいには言い合いのけんかになってしまうなんていうつまらないことにはしたくない。お互いのことをよく知りたいけれど、一気に知りたくはない。ひとつひとつ、ゆっくりと自分で発見していきたい。そこで、質問は3つずつと決めた。

杏奈やマーニーくらいの年だったころ、こんな秘密のルールをつくって遊ぶのはとてもおもしろいことだった。夜、大人には黙って外にでて、秘密のともだちとボートで落ち合い、知りたい気持ちを抑えながら知りたいことを3つだけ聞いていい。ロマンティックなシーンにうっとりしながらも、どこか懐かしい気持ちで胸がキュンとしてしまう。

 

いちごジャムのクッキーとぶどうジュース

クッキーを持ってきたの、とマーニーがバスケットから取り出したのは、クロスに包まれたいちごジャムのクッキーと、ガラスの瓶に入ったぶどうジュース。そして傍らにはガスランタン。

静かな夜、秘密のともだちとボートで過ごすのにこれほど完璧な準備があるだろうか。寂しい毎日を送っていたマーニーは、きっとともだちができたらこんなふうにしてみたい、といつも考えていたのかもしれない。

 

原作ではピクニックしていない!?

女の子ならだれもが憧れるような夜のボートのピクニックシーン。実は原作ではこのとき、いちごジャムのクッキーとぶどうジュースは登場しない。ピクニックではなく、単にボートのシーンとなっているのだ。代わりにいちごジャムのクッキーは、別のシーンに出てくる。それはマーニーの日記の中。

七月 日曜日

きょう、浜辺をはしからはしまで歩いてみた。いくつもの家族が、砂丘に来ていた。あたしは、かげにかくれて見ていた。むこうからは、あたしは見えない。ゆで卵や、いちごジャムの入った焼菓子を食べていた。うらやましい!

引用:思い出のマーニー ジョーン・G・ロビンソン作 松野正子訳

原作ではひとりぼっちで遠くから眺めていたいちごジャムのお菓子を、ジブリ版では杏奈と一緒に食べさせてあげたことになる。いい話だ。ちなみに原文ではこのお菓子、strawberry jam paffsと書いてある。マーニーが浜辺で見たのはクッキーというよりも、ペストリーやデニッシュに近いお菓子だったのかもしれない。