新緑が気持ちいい季節になりましたね。と言いたいところですが、今年はGWからパッとしないお天気が多いように感じます。雲が多い、そして黄砂でしょうか。スカッと晴れてほしいものです。

信州に移住して2回目の春、5/11現在まだ朝晩ストーブを使っています。去年は4/30が最終ストーブでしたので、今年はちょっと寒いみたい。桜が咲くのは去年より早かったのですけどね。ストーブでお豆を煮る生活もあとわずか。

 

無藝荘

蓼科は白樺湖や霧ヶ峰など風光明媚な土地柄で、別荘も多く観光地としての一面があります。だから平日はただの田舎町でも、休日になると東京や名古屋、関西からもたくさんの人が遊びに来ます。ここしばらく冬の間はあまり見かけなかった「都会の人」が、ゴールデンウイークにはツルヤや自由農園にたくさん来て久しぶりの都会の空気にちょっと怯んでしまいました。地元の人とは着ているものも、振る舞いも表情も、なんというか空気感が違いますね。久しぶりに二子玉川のスーパーにいるような錯覚。たった2年前は私もあっち側の人だったんだなあ、なんて。

例のごとく人嫌いなので、都会の人で賑わうゴールデンウイークはおとなしく家に引きこもっていました。で、ゴールデンウイークが終わってから、ようやく蓼科周辺の春を見つけに。

写真は滝ノ湯川。まだ控えめな芽吹きがいじらしい。

 

周辺を散策してサクッと帰るつもりだったのですが、ビーナスライン沿いにある「無藝荘」に明かりが点いていてどうやらオープンしているみたい。以前からビーナスラインを上がる度に見掛けるので存在は知っていたのですが、やっているのかいないのか、そして一体なんの建物なのかわからずにここまで来てしまいました。ただ、雰囲気のいい茅葺屋根の立派な建物なので、気になってはいました。

この立派な茅葺屋根を見てください。軒と茅葺の隙間から囲炉裏の煙が薄くなびいていました。均一な工業製品ではなく、歪みがあるために向こうの景色にゆらめきが生じるガラス。壁と木部の統一されたモノトーンの色調。深い軒が作る安定感のあるシルエットと、その下にあるテラスが洒落た造りですね。

 

映画監督の小津安二郎さんが、脚本を書くために使っていた別荘だそうです。小津さんがこの建物を購入する前には、諏訪湖の片倉館で有名な片倉家が所有していたそうで、築200年くらいの建物です。小津安二郎監督生誕100周年となる2003年に現在のビーナスライン沿いに移築されました。そのため水回りなどは使用感がなくとても綺麗ですが、照明や食器棚など調度品は当時のものだそうです。

この照明やスイッチプレート、今見てもかわいいですよね。大量生産大量消費時代を経験した現代の私たちのセンスは、それ以前のものに回帰していくのかもしれません。あるいはただ、きちんとデザインされ作られたものは、月日が経っても色褪せないという好例なのかも。

パーツひとつとっても、そして建物全体から醸している雰囲気も、とても端正で完成されていると感じました。囲炉裏から上がる煙は200年のあいだに室内の木材を黒く染め、その色調が周囲とよく馴染んでいました。200年経って古びたのが味わいになるというのではなく、200年経ってようやくインテリアが完成したという感じ。積極的に年月を利用している、計算している。まさにフェイクではないエイジング加工。

 

恥ずかしながら、小津さんの作品は見たことがありません。この洒落た無藝荘で書かれた作品、見てみようかな。同じく脚本家の野田高梧さんと共に無藝荘に逗留して脚本を書くときには、1本書き上げるのに一升瓶が100本空いて、縁側にずらりと並べられていたのだとか。その一升瓶は地元のお酒「ダイヤ菊」と決まっていたそうです。

そうと聞いて早速買ってきましたよ、ダイヤ菊。一升瓶ではありませんけど^^

蓼科山の湧き水のように清らかなお酒でした。