宿坊というのは見るのも聞くのも初めて、その存在すら知りませんでした。どうやらお寺へお参りする人を泊めてお世話をしてくれる宿だそうです。お参り前提、というのがホテルや旅館との違いでしょうか。善光寺は日の出とともに始まる「お朝事」が特に有名なので、宿坊に泊まって朝に備えるのがベストプラン。なんと39もの宿坊があります。善光寺へのお参り、せっかくなので宿坊に泊まってきました。

 

兄部坊

なにしろ善光寺には39軒もの宿坊があるので、どうやって選んだらいいかわかりません。ネットで調べてみるといろいろな人の体験記とかが出てきますので、いくつかを参考に「兄部坊(このこんぼう)」に泊まることにしました。お料理がおいしいという情報があったのも大きいのですが、なによりの決め手はネット予約ができること。電話で直接問い合わせるスタイルが多いなか、兄部坊はホームページから予約ができました。恥ずかしがり屋の電話嫌いにはありがたい!

 

宿坊は参道に沿って並んでいるため、それぞれに駐車場はないようです。兄部坊の場合は善光寺の駐車場に停めて、サービス券を頂きました。1日目のお昼過ぎから2日目の午後まで、24時間以上停めましたが無料でした。ありがたい!ただ駐車場から宿まで歩いて5分くらいかかったので、雨の日とかはちょっと大変かもしれません。近くで荷物を降ろしてから車を停めに行ってもよかったかも。

 

チェックイン

ひとつひとつの宿坊が狭い間口にきっちりと並んでいて、提灯が下げてあったり門があったりします。それぞれの宿坊の玄関先に、本日宿泊のお客さんの名前が出ていました。兄部坊は赤い門が華やか。この日は私たちの貸し切りでした。

 

お宿に着きますと、兄部坊の方が玄関先まで出て待っていてくださいました。玄関で靴を脱いで、お部屋に案内してくれます。ホテルのようにフロントでチェックインするのではなく、まずお部屋に通され、お茶を淹れていただいてから、お部屋付きのお世話をしてくれる人が登場しました。この方、とてもきめ細やかにいろいろなお世話をしてくださったのですが、便宜上このブログでは執事さんと呼ばせていただきます。

お茶を頂いていると、執事さん登場。お朝事のいろいろや明朝の段取りを教えてくれます。私たちが行ったときは6:40が日の出で、つまりお朝事開始時刻だったのですが、6:10にお部屋に呼びに来てくださるとのことでした。

 

チェックインしたのが16時頃、お夕食が18時とのことでしたので、私はそのあいだにお風呂へ。他に宿泊者がいると少し手狭というか、ちょっと気まずいかもしれない大きさのお風呂。今回は貸し切りでしたので、ゆっくり入ることができました。夫はそのあいだ、ぶらぶらと長野駅のほうまでお散歩していたようです。

 

精進料理

身体を清めて善光寺へのお参りに備える、ということでしょうか。インターネットで調べてみた感じでは、善光寺の宿坊のほとんどは精進料理のようです。実は精進料理、以前から興味はあったものの食べたことはなく、今回ホテルではなくて宿坊に泊まる決め手となりました。兄部坊はお料理がおいしいと聞いていたので、なおさら。

 

お食事の用意ができました、と部屋まで呼びにきてくださり、別のお部屋へと案内されました。そこにはこたつとすでに支度の整ったお膳が。感動で写真取り忘れました。こたつなんて何年振りでしょうか。そして塗りのお膳に塗りの器。コース料理のように次々とお料理を運んでくださるのですが、ほとんどすべての器が塗りでした。

太平洋側の人間としては、日本海の暗い冬とそれに好対照な漆塗りや金細工、螺鈿細工などのあでやかな小物に憧れます。とはいえ、同じものを太平洋の明るい陽射しの中で使っても同じように美しくは映らない。日本海のどんより湿った空気にこそ似合うのだと思います(褒めてます)。やはり八ヶ岳の空と善光寺の空は違うのだと、少し行けば新潟そして日本海へと続く長野市を実感しました。

 

 

湯葉をうなぎのかば焼きに似せたものや、葛と湯葉を茶わん蒸しに似せたものなど、殺生をせずにもてなす精進料理の工夫を見ることができました。他の宿坊はどうかわからないけど、兄部坊ではお酒もいただくことができました。ビールもありましたよ。このほかにお蕎麦、ごはんとお吸い物、寒天のデザートとボリュームあり。ごはんのおかわりを勧めてくださいましたが、お腹いっぱいでした。

 

お夕飯から部屋に戻ると、お部屋の急須がきれいになり、お布団が敷かれていました。そしてお布団にはなんと、なんと、湯たんぽ!こういう心遣い、本当にありがたいです。お布団の部屋とお座敷と、2部屋続きの部屋には両方にエアコンが付いていて、正直ちっとも寒くはありませんでした。でも普段からエアコンつけたまま寝ることはないし、湯たんぽは本当に嬉しかった。シーツもノリがパリッと効いていてとても清潔でした。

 

お朝事への案内

翌朝、時間通りに執事さんが呼びに来てくださりお朝事へ。お朝事開始より30分も前に出発したのは、善光寺への道々、いろいろな案内をしてくれるためでした。善光寺を護っている天台宗と浄土宗の話、本田善光の話、仁王像の話、六地蔵の話、など。お朝事中も内陣、内々陣へのエスコート、そして恐怖の真っ暗お戒壇巡りでの先導など、細やかにお世話をしていただきました。この時期境内は冷えるので、用意してくださったホッカイロとひざ掛けが有難かったです。出発したときは降っていなかった雨が、お朝事が終わるころに降ってきたのですが、どこからともなく傘を用意してくださったり。他の宿坊からと思われる参拝客も何組かいましたが、私たちほど甲斐甲斐しくお世話をしてもらっている人はいませんでした。お部屋もお料理も満足していますが、こういうホスピタリティがやっぱり一番心に残るしうれしい。

善光寺へのお参りやお朝事についてはこちらです。