ロシアのダーチャをご存知でしょうか?平たく言えばロシア語で「別荘」のことなのだけど、これからの暮らしに有用かもしれないので、地方移住のコンセプトとして考えてみようと思います。

 

移住とダーチャ

ロシアのダーチャ

ダーチャとはロシア語で「別荘」のこと。とくに菜園としての役割を持っているもののことで、ロシアではダーチャで週末や夏休みなどを過ごす人が多いらしい。私たちが別荘と聞いて想像するような豪華なものではないことがほとんどで、多くは畑を耕したり、森を散歩したり、家族でゆっくりしたりといった庶民的な楽しみのための場所だそうです。実際なんとロシア国民の約8割がダーチャを所有しているのだとか。

のどかで平和なイメージのダーチャだけど、実際には有用な役割も。菜園としての機能のおかげで、食糧難の時代にロシア人の命を繋いだ過去があるのです。wikipediaにはダーチャについて次のように書かれています。

経済が著しく混乱していたソ連末期やロシア共和国初期、ハイパーインフレーションや給与支払いが半年、一年も滞り疲弊し切って、日々の食料調達もままならなかったロシア国民にとって、自活(自給自足)という最終手段で食料、現金収入を得る(自力で瓶詰加工など保存食も製造・保管していた)最後の場でもあった。これがロシアの知られざる力となっている。

最低限食べものだけは自給できたロシアの人たちは、ダーチャのおかげで生き延びることができたとも言われています。

 

日本版ダーチャのメリット

時代と場所を変えて、いまの日本のことを考えてみようと思う。お店に行けば野菜や肉、お米といった食材はもちろんのこと、調理済みのお惣菜、冷凍食品なども簡単に手に入れることができる。そればかりかお菓子やお酒といった嗜好品も、簡単に購入できるし、それが当然だと思っている。だから混乱期のロシアみたいに、食べものを自給するためのダーチャが必要だとは思わないかもしれない。

だけど食料に関する問題がないわけじゃないはず。今後ますます増えると予想される遺伝子組み換え食品とか農薬たっぷりの野菜とか薬品漬けの食肉とか。自分のダーチャの菜園に、安全な食べものがいくらかでもある、というのは心強いかもしれない。

 

問題は食べもののことだけではない。ご存知の通り日本は地震や台風といった災害の多い国。ライフラインの電気、水道、ガスはいとも簡単に止まってしまい、そしてなかなか復旧しないことも学びました。もちろんそれは都会だけのことではないのだけれど、信州に移住して感じたのは、こちらには生存するための「あそび」が多い。例えば、電気が止まっても灯油ストーブがあるし、なんなら薪でもいい。水道が止まっても湧き水がある。ガスはプロパンだからそもそも止まらない。首都直下地震が起きた場合、建物の外に逃げたとしてもビルの崩落や飛来物などの2次的な危険があるけど、こちらは何も落ちてくるものがない。ひとまず落ち着くまで庭や畑で待機していれば安心なのだ。

 

移住とダーチャ

もともとのロシアのダーチャは別荘のことだから、別荘でお野菜を育てたらいい、ということになる。それが非常時のセーフティーネットにもなるから。だけど私たちの多くは自宅を維持するのが精いっぱいで、別荘の所有にまで手が回らない。加えて人が密集している関東平野は広く、菜園があるようなセカンドハウスを探すとなると、その往復だけでも時間がかかる距離となり、結局面倒になって行かなくなってしまう。すると菜園のお世話ができずに収穫もできない。

だからいっそのこと、ダーチャを自宅にするというのはどうだろう。自分たちが食べる分くらいの作物を栽培するのだけど、それは義務ではなく、楽しみとして。私だったら、イモ類、豆類、ベリー、果樹、ハーブ類、かな。そしてたまに都会に行って、ちょっと贅沢なお肉とか新鮮な魚介を仕入れてくる。

ロシアの人が週末をダーチャで過ごすのに対してちょうど逆のイメージ。普段ダーチャで過ごして、たまに都会で買い物をしたり、映画を見たり、人に会ったり。そのためにはもちろんダーチャ、もしくはその近くで仕事をしないと成立しない生活なのだけど、今はテレワークとかもあるから以前よりは現実的になったと思う。それにいくらかでも自分で食料生産ができると、最低限は生きていける、という謎の安心感はあるかもしれない。

私は信州に移住したけれど、今のところなにも栽培していない。だから普通にお店に買いに行くし、遺伝子組み換えや農薬のリスクもそのままです。もし以前のロシアのように品物が不足したり物価が上がったりしたら、もちろん影響を受けます。近ごろのコロナウィルスでひとつの都市がまるまる封鎖されるようなことを考えると、最低限の食べものを多くの人が自給できるというのは、国としての強みかもしれない。今の日本では、物流が混乱したら即アウトだから。