夜露よつゆ

夜露の定義は、「夜の間におりる露。」

 

夜露という言葉も現象も知っていたけれど、実際に体験した記憶がない。

だから梅を干すときにも、3日3晩干して夜露にあてる、という工程に実感が湧かなかった。

ひとまずザルに並べて外に出すけれど、それが都会のマンションの室外機の上となれば、夜露が降りるわけがない。

しかも梅を干すのは暑い時期だから、室外機からは熱風が延々と排出されているのだ。

 

夜露が降りた

信州に移住して、たぶん初めて夜露を経験した。

それもほぼ毎日。

 

初めはそれが夜露のせいだとわからなくて、夜のあいだ外に出しておいた洋服が湿っていることが不思議だった。

雨は降っていないし、風とおしのために出していた服なので、そもそも始めから濡れてなどいない。

直射日光に当てないように、大切な服を着たあとは夜のあいだ干しておくのが東京での習慣だった。

 

おかしいなと思いながら3晩くらい干してみても、朝起きるとやっぱりいつも湿っている。

そこでようやく夜露のせいだと気が付いた。

 

干してある洋服が湿るくらいの水分。

ベランダの樹脂部分には、しっとりと水滴が付いている。

 

これほどの水分を、干されている梅が必要とするならば、いままで東京で漬けていた「夜露無しの梅干し」は、梅干しとは言えないのではないだろうか。

移住して夜露を手に入れた今、来年の梅仕事が楽しみでならない。

 

冬の夜露は‥

ほぼ毎日夜露が降りるわけだけど、どうやらその様子は季節を追うごとに変化するようだ。

 

秋のあいだはベランダの手すりが濡れ、草が濡れていた。

それが朝日に当たるとキラキラ輝く。

それを見て、夜のうちに雨でも降ったのかな、と思ったなんて無知もいいところだ。

 

移住して思うことのひとつに、いままで知らずにいたことが、当然のように展開している世界があるということ。

夜露もそのひとつ。

東京でも夜露は降りていたのかもしれない。

だけどそれを知らなかったし、興味もなかった。

だから夜露のキラキラ輝く朝も知らなかった。

 

その夜露、考えてみるまでもなく当然のことなのだけど、冬には凍る。

無知な私はもちろん知らず、夜、星を見ようとベランダに出て驚いた。

スリッパの底がツルツル滑るのだ。

まだ11月。

 

そういえばここしばらく、隣の空き地に霜が降りていた。

日かげの部分は白い霜で、そこに朝日が当たると雫になってキラキラ輝く。

太陽の光の移動に伴って霜は徐々に浸食され、最後にはすべての霜がとけてしまう。

 

下草に降りた夜露も、ベランダに降りた夜露も、気温が下がれば例外なく凍る。

体験からひとつずつ知識を得ている。